ソビエト連邦でいかにしてテトリスが生まれ、いかにして鉄のカーテンを越え、いかにして任天堂が権利を勝ち取ってゲームボーイの最強コンテンツにしたかのドキュメンタリー、ダン・アッカーマン『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』。ゲーム業界草創期物語、任天堂法務部戦記、ソ連末期のある市民の記録、テトリスというゲームの特異性の研究書と様々な楽しみ方ができる本でした。
『 テトリス・エフェクト』 ダンアッカーマン 【出版】 2017-10-17【頁数】 358 冷戦終結間際の1989年2月。日本で小さなゲーム会社を営むヘンク・ロジャースがモスクワに降り立った。そのあとを追うように、さらに2人の西側諸国の人間がモスクワへと入った。目的はただひとつ。それはソ連政府の管理下にあるテクノロジーで、当時すでに世界中の人々に途方もない影響を与えていた代物―「テトリス」。開発からライセンス争奪戦、ゲームボーイでの大ヒットまで、綿密な取材に基づいて描く、伝説的ゲームの驚きの実話。 |
主人公のひとりが日本初のRPG『ザ・ブラックオニキス』を開発、発売したヘンク・ロジャース。後に任天堂のためにテトリスの権利を獲得する立役者となります。最初はプログラミングできる何でも屋みたいな感じで日立と仕事したらヴィジカルクという表計算ソフトを違法コピーしろと発注されて断ったとか、著者のダン・アッカーマンはアメリカ人ジャーナリストということで、日本の大企業にも容赦なく詳細なエピソード満載です。
と言うか、当時のゲーム業界を語るとなると日本が当然メインステージになるわけで、外国人ジャーナリストの目を通してみる日本ゲーム業界草創期物語としてべらぼうに面白い!
ヘンク・ロジャースが光栄の社長夫婦からゲーム会社立ち上げる方法を指南されたとか、孫正義が全部ソフトバンクで仕入れてやるって言うからたくさんソフト作ったのに裏切られたとか、任天堂の山内溥社長に囲碁ソフト開発してみせると大ボラふっかけて気に入られたとか、ヘンク・ロジャースが主人公なお陰でビッグネームが次々と飛び出します。
そして、山内溥社長の娘婿であるNintendo of America社長の荒川實が登場すると、当然、宮本茂と一緒にドンキーコング作る場面も紹介されるわけです。
いやはや、任天堂法務部が凄まじいことは半ば都市伝説のようにしてネットで語られていますが、ドンキーコングの時点でハリウッド相手にデカい法廷闘争やって勝利していたんですね。そうした法廷闘争のノウハウが遺憾なく発揮されたのがテトリスの権利を巡る闘いだったのです。
資本主義の理屈が一筋縄では通用しない共産圏で、時にはソ連の役人と不思議な友情を育みつつ、イギリスの巨大メディアグループを向こうに回した権利争奪戦でギリギリの勝負で勝ちきる強さは、本当にとんでもないです。最強企業弁護士ハワード・リンカーン物語として読んでも面白い!
そして、ソ連末期の一般国民の生活ぶりのリアルが、テトリス開発者アレクセイ・パジトノフの生活ぶりや、権利獲得に乗り込んだヘンク・ロジャース達の戸惑いぶりから伝わってきて、当時の鉄のカーテンの向こう側を覗くつもりで読んでも面白い!
ゲームボーイが発売され、すぐにテトリスも発売されて大ヒットしたのが平成元年でした。そのゴールに向けた物語、昭和が終わりに向かっていくころの雰囲気の懐かしさとあいまって、特に40代から50代くらいの人にとっては、たまらない本だと思います。
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