ヘンリー・ジェイ・プリスビロー『意識と感覚のない世界~実のところ、麻酔科医は何をしているのか』

「先生!しつこいです!その患者さんは間違いなく絶食しています!」
と担当看護師から言われた麻酔科医は、その4歳の患者本人からの申告、
「僕、シリアルバー食べちゃったよ😏」
とどう向き合えば良いのか…。

『 意識と感覚のない世界』
ヘンリー・ジェイプリスビロー

【出版】 2019-12【頁数】 232
麻酔はなぜ意識や痛みを消すのか? 3万回以上の処置をおこなってきた麻酔科医が描く、謎めいた医療技術をめぐるノンフィクション。
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アメリカの麻酔科医ヘンリー・ジェイ・プリスビローの『意識と感覚のない世界~実のところ、麻酔科医は何をしているのか』を読んで、それぞれの仕事に思わぬ落とし穴があるものだなと唸りました。全身麻酔を要する手術では、胃に内容物があると誤嚥性肺炎や窒息のリスクが高まるので、基本的に絶食が必要なんだそうです。その見極めも、麻酔科医の腕の見せ所なんですね。

タイトルの通り、麻酔科医が実のところ何をしているかが綴られたエッセー。

全身麻酔のガスがどうして機能するのか、実は今でもよく分かっていないんですね。その歴史もまだまだ浅く、『グレーテストショーマン』のモデルとなったP・T・バーナムの興行の中に、不安を忘れる笑気ガス体験ショーがあった、なんてことも書かれています。19世紀でも、まだまだおもしろガス扱いだったんですね。

全身麻酔のねらいとして明確に、手術中の〝記憶の生成〟そのものを阻害することが含まれているというのも、この本で初めて知りました。少し前に、麻酔がきれかけている時に医師から胸を舐められたと訴えた患者さんがいて、それは麻酔明けの意識や記憶の混乱であると無罪判決が下った事件がありましたが、なるほど人間の意識や記憶は本当に不思議なものだとよく分かりました。

タイトルから、そうした意識と感覚の不思議にもっと踏み込んだ内容を期待して読んだのですが、そこは大したことありませんでした。あくまで“臨床”麻酔科医のエッセーであって、意識と感覚と麻酔の最先端を知れる本ではありません。だからこそ、サクッと読めてしまうので、臨床麻酔科医が何をしているのかをお手軽に知りたいというニーズであれば、それなりにおすすめです。

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