ミカエル・ロネー『ぼくと数学の旅に出よう』で小学生に方程式を使わせない理由を推察

鶴と亀が合わせて23匹います。足の数は合わせて56本です。鶴と亀はそれぞれ何匹いるでしょうか?

鶴亀算の面積図を使った解き方を、小五で通い始めた能力開発センターという塾の渡辺先生から習った時には、なんて賢い解き方なのだろうと感動したのを覚えています。しかし、中学受験が終わった小六の年度末に、進研ゼミの中学準備付録として方程式の教材が届いた時に、その汎用性の高さに衝撃を受け、何故もっと早くこれを教えてくれなかったのかと思ったのも覚えています。

中学受験で方程式という万能のツールを敢えて封印して面積図を使った解法を推奨してきた理由が、フランスの数学者ミカエル・ロネー『ぼくと数学の旅に出よう―真理を追い求めた1万年の物語』(NHK出版)を読んで推察されました。人類の数学発展の歴史をなぞっているんですね。それが正しいかは議論があると思いますが、美しいひとつの形ではあると思います。

『ぼくと数学の旅に出よう : 真理を追い求めた1万年の物語』

ミカエル・ロネー 著,山本知子, 川口明百美 訳

NHK出版

【出版】2019.1

【頁数】333p

書籍情報は、国立国会図書館サーチのAPI(書影データ提供機関:出版情報登録センター)に由来します。

プラトンのアカデメイアの門に「幾何学を知らぬ者、くぐるべからず」と掲げられていたように、幾何学が数学の女王として君臨する時代が長く続き、やがて、扱う問題の抽象度が上がっていき代数学に取って代わられる。

少年時代の私は、鶴亀算の解法にも応用される幾何学の、数学の女王としての美しさに感動し、一方で限界も感じていたところに、代数という概念を与えられて何じゃこりゃ!スゲーと、古の数学者の歩んだ道を同じようにたどったわけです。

そうした、必要に迫られて数学に新たな概念が生まれていく歴史が、負の数、三角関数、虚数、微積分などで分かりやすく語られています。どの概念も、それぞれの時代に他の数学者からなかなか受け入れられなかったことも語られていて、そりゃあ我々一般人がなかなかピンとこないのも当たり前だなとほっとします。というか、この本で初めて腑に落ちた概念もありました。マイナス×マイナスがプラスになる説明は、この本が一番分かりやすかった気がします。

一方で、今、数学をとりまく状況はさらに大きく変化しています。数学発展の歴史をなぞるとかロマンティックなこと言ってないで、コンピュータ活用を前提とした算数教育のあり方まで踏み込んで検討していかなければいけない時代なのかもしれません。

『ぼくと数学の旅に出よう』では、その他、数学と美しさとの関係も語られています。紹介されているマンデルブロ集合は、なるほど美しい!

大人になって読んでも新しい発見がたくさんある本ですが、高一くらいで読みたかった!

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