漫画のタイトルに使われた隠語“刺繍”の意味に度肝を抜かれました。どういう意味か分かりますか?言われてみれば納得の意味で、イスラム社会を理解するのに役立つ隠語だと思います。ちなみに“全面刺繍”もあります。
イスラム主義勢力タリバンがアフガニスタンの政権を再び握ってから、もうすぐ3年。タリバン政権下のアフガニスタンでは、女性の抑圧が特に問題となっています。厳格なイスラム社会で、女性はどのような思いをするのか?理解するための強力な補助線となってくれるのが、イラン出身でフランスに住んでいる女性漫画家マルジャン・サトラピさんの漫画です。
マルジャン・サトラピ 著,山岸智子 監訳,大野朗子 訳
明石書店
【出版】2006.7
書籍情報は、国立国会図書館サーチのAPI(書影データ提供機関:出版情報登録センター)に由来します。
『刺繍―イラン女性が語る恋愛と結婚』は、結婚前のデートすら原則タブーとされるイスラム社会で女性はどのように恋愛するのか?そのあたりの感覚を赤裸々に描いたものです。
イラン女性ぶっちゃけトークの中で何度か登場するキーワード“刺繍”は、“処女膜再生手術”の隠語なのです。“全面刺繍”は、ついでに膣を狭める手術もすること。
処女性が強烈に求められる社会に生きる女性の哀しみを、サトラピさんと親戚のおばちゃん達が集まって、したたかに笑い飛ばして気晴らしする、イスラム女性の女子会トークをのぞき見ることができます。
『ペルセポリス』というサトラピさんの自伝漫画もあって、こちらはまさに、今のアフガニスタン女性の状況に重なる部分も大きいと思います。
『 ペルセポリス I』 マルジャン・サトラピ 【出版】 2005-06 子どもの頃、革命がありました…戦争がありました…人がたくさん死にました…。イスラーム革命、イラン・イラク戦争…激動の時代を斬新なタッチで描いた注目の回想記。12ヶ国で出版された世界的なベストセラー待望の翻訳。 |
『 ペルセポリス II』 マルジャン・サトラピ 【出版】 2005-06 ひとり国を離れ、恋もした―クスリもやった―そして失望した。戦火を逃れた異国での孤独…傷心の帰国…結婚やがて離婚。ハーベイ賞、アレックス賞などを受賞した話題作の続編。 |
サトラピさんは子ども時代にイスラム革命を経験していて、その頃のエピソードも描かれているからです。イスラム革命前のパフラヴィー朝時代は、アメリカの強い影響の下、脱イスラム主義、世俗化を推し進めていたけれど、結局、イスラム革命によって、アメリカがアメリカ的価値観と一緒に追い出されてしまったわけです。イスラム革命で暮らしがどのように変わったか、革命防衛隊をどのように見ているかなど、少女サトラピの視点を通してニュアンスがよく分かる形で描かれています。
あと、サトラピさんたちペルシャ人がモンゴル人やアラブ人に支配されてきたという歴史観が描かれていて、ペルシャ人視点で歴史を眺めたことがなかったので妙に新鮮で、世界史を理解するためのいい補助線となりました。
一口にイスラム世界といっても、その有り様は国によって千差万別であることを忘れてはいけませんが、少しでも理解するための入口として、単純に漫画としてとても面白いのでかなりオススメです。
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