ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』を読んで鼻水出るまで泣きました。自分でもひくくらい。主人公である息子君が、あまりにも優しくて他人の痛みに敏感な子で、それがあまりにもまぶしくて、自分のズルさが哀しくなって。
『 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』 ブレイディみかこ 【出版】 2021-09-16【頁数】 208 変わりゆく時代の中で、大切なことは何か。13歳になった「ぼく」の日常は、私たちに問いかける。80万人が読んだ成長物語、完結。 |
イギリスに渡ってトラック運転手と国際結婚したブレイディみかこさん。その一人息子の中学校生活を中心に綴られる、移民社会のリアル。夏休みなどに福岡へ一家で帰ってきて、英語がまったくしゃべれないおじいちゃんと、日本語がそんなに得意ではない息子君との交流も描かれたりします。
福岡出身のブレイディみかこさんのお母様は長らく精神を病んでいて、そんなおばあちゃんとの距離感を息子君は自分なりに測り続けていて、そんなおばあちゃんを支えているおじいちゃんのことが息子君は大好きで、だけどそんなおじいちゃんも昔はいわゆる九州男児っぷりが過ぎてブレイディさんと衝突していたこともあって、そもそもおじいちゃんが昔はそんなだったからおばあちゃんの病が悪化した面も…。そんな中、息子君は自分なりに必死で考えておじいちゃんに手紙を書いて…。さりげない描写なのですが、それだけにいろんな想像が膨らんで涙腺が決壊してしまいました。ああ、心優しき息子君に幸多かれ!
ブレイディみかこさんは、物事をいろいろな角度から見る方です。そこに、
「労働者階級である俺のようになるな」と息子に言ってしまうような、イギリス人である夫の視点も加わります。何より、移民社会にもまれる中学生である息子君の若々しくて鋭い視点も加わって、とにかくいろいろな立場でイギリスの移民社会のリアルが見えてくるのです。
個人的にスッキリしたのは、ニュージーランドのアーダーン首相(当時)のパフォーマンスを“大学生の感傷”と斬って捨てるイラン人女性のエピソード。ムスリムへのシンパシーを表現するためにスカーフをヒジャブ風に頭に巻いて見せたアーダーン首相のパフォーマンスに対して、イラン人女性が、
「ヒジャブは女性への抑圧と差別のシンボルだから、一国のリーダーならよけいに被ってほしくない。大学生なら感傷的になってやっちゃうのもわかるけどね」と苦言を呈したのです。
実は私も、2018年にアーダーン首相が産休をとって話題になったところまではステキだなと思っていたのですが、パートナーの男性と生後三ヶ月の赤ちゃんと一緒に国連総会に参加した時のエピソードで印象が変わりました。
「俺が国連の会議室でオムツ替えてたら、そこに日本代表団が出くわして驚いてた。その顔を撮影しておきたかったよ。」みたいなことをパートナーの男性がツイートしたのです。何だか嫌な感じだなぁと思ってしまいました。
国連のID写真を添えて、俺たちカップルが先進的過ぎちゃって前世紀頭の奴らには刺激が強すぎたかな?ってアピールするtweetで、ちょっとイキり大学生風味なのは否めないよなぁと…。
もちろん、そこにはいろいろな見方や考え方があります。アーダーン首相のヒジャブパフォーマンスも、一般的には、多様性と連帯の重要性を示したと賞賛されたそうです。捉え方って本当に多様で、その多様性に寄り添える様々な視点を得られるのが、ブレイディみかこさんの本なのです。
この本の1巻も猛烈にオススメです。1巻の中に出てくる息子君の言葉「人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。罰するのが好きなんだ。」は、つくづく真理を捉えていると思います。
『 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ 【出版】 2019-06【頁数】 252 大人の凝り固まった常識を、子どもたちは軽く飛び越えていく。世界の縮図のような「元・底辺中学校」での日常を描く、落涙必至のノンフィクション。 |
私が最初に読んだブレイディみかこさんの著作は、みすず書房から出ている『子どもたちの階級闘争-ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で、ご自身がイギリスの無料託児所で働いていた時の、移民社会のリアルと向き合ったエピソードが綴られています。
『子どもたちの階級闘争 : ブロークン・ブリテンの無料託児所から』
ブレイディみかこ [著]
みすず書房
【出版】2017.4
【頁数】285p
書籍情報は、国立国会図書館サーチのAPI(書影データ提供機関:出版情報登録センター)に由来します。
移民社会のリアルは、私の想像とはかなり違っていました。すなわち、“移民が差別される”という単純な構造ではまったくなくて、“勤勉な移民が古くからのイギリス人の一部の層を怠惰なクズだと差別する”という複雑な構造もあるのです。チャンスを求めて移民してくる人達のエネルギッシュさ、勤勉さについて、きちんと認識出来ていなかった自分に気付かされました。もちろん、“移民”と一括りにできない多様性があるのは大前提ですが。
我々も移民問題についての議論を避けられない状況なワケで、ブレイディみかこさんの本は、その議論の大切な手がかりにとなると思います。
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