松島憲一『とうがらしの世界』で唐辛子が16世紀デビューという事実に震える

激辛チップスを食べた高校生が体調を崩して大変な騒動になっています。含まれていた激辛成分は唐辛子由来だと思われます。世界各地の若者の間で激辛チャレンジが流行しているようで、アメリカでは亡くなった高校生もいるとの報道も。

今回の騒動でも改めて感じたのですが、16世紀デビューで、ここまで世界中の食文化に根付いてしまっている唐辛子って、すごいですよね。唐辛子は、コロンブスが持ち帰るまでは、原産地の中南米以外には影も形もなかったのが定説です。韓国やタイの研究者の中には、もっと昔から唐辛子あった説を唱えている人もいるとのことですが、そう思いたい気持ちも分からないではありません。

そんなことを考えるきっかけになったのが、松島憲一『とうがらしの世界』。筆者は、信州大学農学部の先生です。善光寺の門前にある有名な七味唐辛子屋・八幡屋磯五郎との共同研究とか、いかにも信州らしい。唐辛子の農作物としての基礎知識から始まり、世界各地で独自の進化を遂げた唐辛子食文化をていねいに紹介した本です。

『とうがらしの世界』

松島憲一 著

講談社

【出版】2020.7

【頁数】245p

書籍情報は、国立国会図書館サーチのAPI(書影データ提供機関:出版情報登録センター)に由来します。

“伝統”って何だろうとつくづく考えさせられました。唐辛子による侵略が現在進行形だった当時の“伝統”食の料理人は、どんな気持ちだったのでしょう。大切に伝えてきたレシピが全部真っ赤に染められていくって…。

ピーマンやパブリカは、辛味成分を生む力が完全に無くなった品種の唐辛子なんですね。シシトウは、辛味成分を生む力が本来はオフになってるんだけど、単為結果などのイレギュラーが発生した個体だけ辛くなっちゃうことがある品種の唐辛子。成人して焼鳥屋で初めてシシトウを食べたときに、ナチュラルロシアンルーレットな野菜の存在というか、それをみんなが当たり前に受け入れている状況に衝撃を受けたことを覚えています。

辛味成分って、哺乳類よりも鳥類の方が鈍いそうで、より遠くまで種を運んでくれる鳥類に多く実を食べてもらう方向の進化で唐辛子が生まれたそうです。それが、辛味に目覚めたへんてこ哺乳類・人間によって、さらに遠くまで広がることになるなんて、本当に不思議ですよね。

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