米国第3代大統領トーマス・ジェファーソンは奴隷との間に子どもをもうけていた可能性が極めて高いことがDNA解析によって分かったそうです。
石浦章一『王家の遺伝子 DNAが解き明かした世界史の謎』を読んで初めて知りました。人種差別問題についてしっかり考えなければと思っていましたが、思わぬ本で、“人種”の定義すらまともに理解していない自分の認識不足を突きつけられました。
石浦章一 著
講談社
【出版】2019.6
【頁数】254p
書籍情報は、国立国会図書館サーチのAPI(書影データ提供機関:出版情報登録センター)に由来します。
トーマス・ジェファーソンは、6人の子どもを生んだ妻マーサに先立たれ、一家の世話は妻マーサの異母姉妹にあたる奴隷のサリー・ヘミングスがしていたのだそうです。もうこの時点で、妻の異母姉妹が奴隷!?となってしまいました。つまり、妻マーサの父親が奴隷の黒人女性に生ませた娘・サリーが奴隷としての地位を受け継いで、異母姉妹・マーサの家に奴隷として仕えたということです。サリーは外見上、ほぼ白人だったそうです。
そう言えば、白人と黒人の混血を指す「ムラート」という言葉があったことを、高校の地理の時間に習いました。その言葉が示す人間模様の凄まじさにまったく思いが至っていなかった自分に気付かされます。
そのような経緯で奴隷としてトーマス・ジェファーソンに仕えたサリーは計7人の子どもを産み、うち5人が成人しました。そのすべて、または一部の父親がトーマス・ジェファーソンではないかと疑われたのです。5人のうち4人は白人と結婚し、以後白人社会に入ったとされ、1人はアフリカ系アメリカ人として黒人社会に入ったとのこと。
サリーの子どものうち3人の子孫のDNA解析が行われ、そのうち2人はトーマス・ジェファーソンの血を引いていて、1人は引いていない可能性が極めて高いという結果が出たそうです。アメリカ人は家系の話が大好きで、トーマス・ジェファーソンの関係者でつくるグループがあるのだとか。トーマス・ジェファーソンの子である可能性を否定された子孫の一族も、のちにファミリーメンバーとして迎えられたそうです。
こうしたエピソードを噛みしめた上で味わうことで、この本の終盤に出てくる次の一文を本当の意味で理解できた気がします。
“人種とは、単に肌の色だけでなく、社会・経済・文化的要素を大きくともなう概念であり、遺伝子解析によって判別できるような生物学的基盤をもつものではない。”
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