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アポロ世代じゃないイーロン・マスクがなぜ宇宙開発を?
ウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク』を読んで、ここ5年ほどの疑問がやっと解消しました。
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【疑問】アポロ世代じゃないイーロン・マスクが、宇宙開発事業にこれほど情熱を注ぐのはなぜ?
ジェフ・ベゾスがAmazon.comで稼いだ金を宇宙開発事業に投入する気持ちは、なんとなく理解できます。1964年生まれで早熟だったジェフ少年が、1969年アポロ11号の月面着陸テレビ生中継という強烈な原体験に突き動かされるというストーリーは、超あるあるだからです。「あの夢をもう一度」という今の60歳前後の世代の強烈な感情は、少し異様で、だからこそ浦沢直樹『20世紀少年』みたいな作品が成立するわけです。あの世代のみなさんが、アポロ計画の話、日本だとセットで大阪万博の話をする時のぶっ飛んだ目は、我々世代にはちょっとついていけないものがあります。
イーロン・マスクは1971年生まれなので、その熱狂を体験していません。全財産をぶち込む理由として釣り合うのは、アポロ世代の正気を失ったあの熱狂くらいじゃないと、私は納得できないのです。民間宇宙開発関連の本をいろいろと読み漁ったのですが、イーロン・マスクという人物があまりにも複雑怪奇すぎて、とにかく本気だということくらいしか分かりませんでした。
「科学文明は気を抜くと衰退していく」のが耐えられないから
それが、さすがは、伝記の名手ウォルター・アイザックソン!この本のおかげでやっと分かりました。
イーロン・マスクは、「実は科学文明は気を抜くと衰退していく」という事実に、ひょんなことで宇宙開発にいっちょかみした時に気づいてしまい、それがあまりにショックで、ギークとして耐えられず、思わず本気になってしまったのです。
我々は科学文明は進化する一方だと思い込んでいますが、ギリシャ時代の科学文明が中世ヨーロッパで衰退してしまった歴史を思い出さなければいけません。過去の方が科学文明が進んでいるという状況は、決してフィクションの専売特許ではないのです。少なくともアメリカの宇宙開発関連の科学技術は、あきらかに衰退する一方でした。
冷戦という異常な状況だからこそ生まれた狂気の発達は、冷戦終結とともにあっさりと失われてしまっていたのです。「あの夢をもう一度」って、単なる思い出補正で輝いているだけのことがほとんどですが、宇宙開発に限っては、本当にあの頃だけ輝いていたわけです。そりゃあ、アポロ世代の先輩方もぶっ飛んだ目になるわけです。
狂気との相性が一番良い宇宙開発という分野
そして、そんな異常な時代だからこそ成立していた宇宙開発の狂気成分を、イーロン・マスクがひとりで供給している様子が、伝記にはたっぷりと描かれています。というか、宇宙開発事業に限らず、手掛けてきた様々なビジネスすべてにおいて、イーロン・マスクは狂気と言うしかないスピード感で駆け抜けていました。宇宙開発事業は、狂気との相性が一番良い分野と言えるかもしれません。ロケットエンジンの噴射ノズルのふちに亀裂が見つかって、NASA時代の常識ならエンジンまるごと作り直しなのに、そんなことやっていたら火星移住の目標をいつまで経っても達成できないからと、ノズルのふちをじょきじょき切ってしまうのです!たしかに亀裂はなくなります。短くなるけど。そして、イーロン・マスクの計算通り、ちゃんと飛んでしまうのです。どうかしているけど、たしかにそのスピード感じゃないと火星なんて絶対無理です。
イーロン・マスクが関わるようになって以来、X(旧Twitter)がしょっちゅう大規模障害に見舞われていますが、イーロン・マスクの流儀だと、こうなるよなとよくよく分かりました。とりあえず突っ走ってみて、失敗したところで原因を探って修正していくのが、一番効率が良いとイーロン・マスクは知っているからです。それくらい効率を追求しないと、人類が火星で生活できるようになる日は、いつまでも来ないのです。
SNSビジネスとの相性は厳しいのでは?
一方で、イーロン・マスクとSNSとの相性は、ロケットに比べると良くないだろうなというのは強烈に感じます。ロケットや電気自動車のようなハードウェアが相手だと、動かないとか、爆発するみたいに、物理法則がNGを出してくれて、失敗したことが分かりやすいです。一方で、インフラと化したSNSサービスの運用における失敗の定義は、なかなか難しいので、イーロン・マスク方式との相性は厳しいと思うのですが…。
リスク大好き一族
そして、伝記の冒頭は、イーロン・マスクのファミリーヒストリーなわけですが、そろいもそろってリスク大好き人間ばかりで衝撃的でした。わが一族からイーロン・マスクは絶対に生まれないなと確信。このファミリーヒストリーパートだけでも度肝を抜かれること請け合いです。
現場で手を動かして身につける知見の尊さ
また、イーロン・マスクの学業成績が、とびぬけてよかったわけでもなかったのが意外でした。一方で、私の読む限り、ビジネスとしてかかわってきた膨大な分野全般に、かなり専門的な知見を備えていることは間違いなさそうです。とにかく現場で自分で判断しなければ気が済まないイーロン・マスクが、現場で手を動かしながらすさまじいスピードと深さで学び続けてきた成果なのだと思われます。
私も自分の担当分野だけでなく、職場で営まれていること全般の知見を、このサイト作りのような形で手を動かすことで必死で身につけ、いざとなったらロケットエンジンのノズルのふちをじょきじょき切って間に合わせるくらいの判断ができるようになるべく頑張っていきたいものです。



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