エドワード・スノーデン『スノーデン独白 消せない記録』でアメリカ政府の監視を実感した思い出

世界中の市民の通信を盗み見るシステムをNSA=アメリカ国家安全保障局が運用していると2013年に内部告発したエドワード・スノーデンの自伝『スノーデン独白 消せない記録』(河出書房新社)。スノーデンは告発からずっとアメリカ当局に追われていて、今はロシアに住んでいるとされています。

『 スノーデン独白』
エドワード・スノーデン

【出版】 2019-11-30【頁数】 376
国際監視網への告発により最強の諜報組織を敵に回した今世紀最大の叛逆的英雄スノーデン。半生、葛藤と決断のすべてを綴る衝撃の自伝。
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WikiLeaksのジュリアン・アサンジと混同しがちですが、違う人です。スノーデンはwhistleblower=告発者であり、leak=漏洩したわけではないという信念があるようです。告発者って英語では笛を吹く人って表現するんですね。“笛吹けど踊らず”を恐れ、周到に準備した甲斐あってか、スノーデンの告発は世界を少し変えました。

例えば、2018年4月からは、Safariブラウザでhttp://で始まるURLのサイトを見ると「Web サイトが安全ではありません」と警告が表示されるようになって、本当に驚きました。これをきっかけに多くのWebサイトがhttps://に改修、つまり通信が暗号化されました。iPhoneのシェアのパワーがインターネットのスタンダードを一気に塗り替える様子に衝撃を受けたのを覚えています。その背景には、スノーデンの告発を受けて、国家による通信の秘密の侵害は可能な限り防ぎたいのだというAppleのメッセージも含まれていたと思われます。Appleは少なくとも建前としてはそういうの大事にしていることになっていますし。

読んでいると、90年代のインターネット世界の美しさを懐かしむなど、かなりナイーブな描写がてんこ盛りで、少し冗長にも感じます。しかし、こうしたパートが欠かせないものだったことに、終盤まで読み進んで気付かされました。スノーデンがこの自伝で達成しなければいけないミッションは、彼の告発が正義感から行われたもので、ロシアや中国の工作員として行ったものではないと、世間の人に信じてもらうことだからです。信じてもらうためにはエモさが重要なのです。

私はスノーデンを信じる気になった一方で、スノーデンの告発が描き出す“監視社会というディストピア”を、そういうものとして受け入れてしまっている自分がいるのも感じています。監視マシーンまっしぐらなスマートスピーカーめっちゃ使っちゃっていますし…。

この本は、2019年11月30日に世界26カ国同時刊行されたのですが、その原著がアメリカで9月17日に発売された直後に、版元がアメリカ政府に訴えられました。内容を事前検閲させなかったからだそうです。そして、私自身も、アメリカ政府の監視を実感することがあって驚きました。発売後すぐに読んで、感想文をFacebookで共有したのですが、表現を一部変更しようとしたら、なぜかエラーが頻発したのです。Facebookのようにアメリカ政府の指示をすんなり受け入れる企業のプラットフォーム上では、各国表記の“スノーデン”をトリガーにアラートを出させて、もろもろ確認するくらいのことは、本当にやっているんだなと驚いたのを覚えています。特に後ろめたいこともなかったので、「イェーイ!NSAの中の人、見てる?」みたいなことをわざと書き加えて遊んだりしたのですが、その後4年間、特に実害はありませんでした。

これから読む人は、ナイーブパートは工作員じゃないよアピールのパートと割り切って斜め読みでも良いと思います。他にも色々と考えさせられることいっぱいの本ですし、今でも読む価値は大きいと思います。

また、「シスアドって外部の委託業者とかに任せたり平社員がやってたりするけど、それって組織のアキレス腱をその人に任せることだと認識しろよ」という当事者スノーデンからのメッセージもめっちゃ響きました。アメリカの諜報機関ですら外注なのか…。

そして、翻訳した山形浩生さんによる訳者解説が、スノーデンに対する敬意に欠けている的な理由でボツになったそうですが、山形さんのWebサイトで読むことができます。他にも、緊張感に満ちた原稿の受け渡しエピソードなども紹介されていておもしろいので、山形さんのサイトの記述もあわせて読むことをオススメします。

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