ジュリアン・ガスリー『Xプライズ 宇宙に挑む男たち』でアメリカ人を宇宙開発に駆り立てる原動力を理解する

アメリカでは、イーロン・マスク率いる民間宇宙開発会社スペースX社が民間人だけの宇宙旅行を成功させています。スゲー!と思う一方で、何がそこまで、アメリカ人を宇宙開発に駆り立てるのだろうと、いまいちピンとこないという人もいっぱいいると思います。私もその一人でした。そこに4本の補助線を引くことで、私はいろいろとスッキリして理解が捗りました。

補助線①1957年スプートニク・ショック

宇宙開発にかける情熱というかリアリティーは、世代によってまったく違うという認識が非常に重要です。まず、スプートニク・ショックという補助線を引くのがすべてのはじまり。1957年10月4日、ソ連が人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功したというニュースが、突如として世界を駆けめぐりました。

いわゆる冷戦をやっている相手の国が、宇宙空間の軌道に人工物を投入することに成功したなんて、めちゃくちゃビビるに決まっています。核爆弾をはるか彼方からあなたの国に打ち込むなんて朝飯前ですよと証明されたわけです。宇宙ロケット技術はミサイル技術と切っても切り離せないものですから、のど元にナイフを突きつけられたような感覚です。アメリカは猛烈な危機感に突き動かされ、その翌年の1958年にNASAを設立。そして、莫大な予算が宇宙開発に投じられることになりました。

そういう「宇宙開発を急がなきゃ殺される」という感覚の時代が、今から60年くらい前にあったのです。

補助線②1969年アポロ11号月面着陸

「宇宙開発を急がなきゃ殺される」という感覚はスゴいもので、スプートニク・ショックからたった12年で、アポロ11号は月面に人類を着陸させました。そして、1969年当時の少年少女の心に強烈な影響を与えたのです。日本で言うと、1970年の大阪万博について目をきらきらさせて語る例の世代。20世紀少年です。

遂に達成してしまったのだ!アメリカのロケット技術はソ連なんかにもう負けない!アメリカこそが宇宙を開発するのだ!という熱狂は、この時頂点を迎えました。

20世紀少年たちの無邪気で強烈な宇宙への憧れの感覚がとても羨ましいのですが、私たちの世代は本を読んで追体験して想像力を働かせることしかできません。人類の宇宙への挑戦は、アポロ計画をピークに一気に下火になり、ポルノグラフィティが歌っているように、ボクらが生まれてくるずっとずっと前の話になってしまったので。

補助線③宇宙開発賞金レース Xプライズ

そんな世代による認識の差を埋めるべく読んだのがジュリアン・ガスリー『Xプライズ 宇宙に挑む男たち』という本でした。原題は“HOW TO MAKE A SPACESHIP”。BUILDではなくMAKE、ホームメイド宇宙船。

『 Xプライズ宇宙に挑む男たち』
ジュリアン・ガスリー

【出版】 2017-04【頁数】 598
少年時代からの夢に向かって、宇宙飛行ビジネスの実現を目指すピーター・ディアマンディス。天才航空機設計者で民間宇宙機の開発に人生を捧げるバート・ルータン。難病を克服し、偉大な祖父のように横断飛行に挑戦するエリック・リンドバーグ。そして、彼らとともに宇宙への野望を胸に抱くイーロン・マスク、リチャード・ブランソン、ジェフ・ベゾス…。世界初の民間による有人宇宙飛行に挑み、新たな時代を切り拓いた男たちの驚異のストーリー、斬新なアイデアにあふれたイノベーション。国際賞金レース、Xプライズの誕生から数々の挫折、達成までをドラマティックに描く!
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登場人物は軒並み、アポロ計画1969年7月20日の月面着陸を子ども時代にテレビで見て、宇宙への思いを燃え上がらせます。そこに、アメリカという広大な土地とどこまでも自由な精神が加わると、少年時代に、ペットボトルロケットなんてちゃちなものではない、ガチのロケット作りに勤しむみたいなことになっていたらしいのです。宇宙開発に猛烈なリアリティーがあったのです。

ところが、「宇宙開発を急がなきゃ殺される」なんて緊急事態モードは、莫大な予算が投じられていたわけで、目標達成したらすぐ店じまいモードにならざるをえないわけです。さらに、世界中がテレビ中継で見守る中でロケットが爆発炎上して7名の乗組員全員が犠牲になるという1986年のチャレンジャー号爆発事故もあり、アメリカ政府による宇宙開発は、足踏みどころか、後退してしまいます。宇宙ステーションにアメリカのクルーを送り届けるためにロシアに頼らなければいけない状況にまで陥ってしまいました。

ただ、そんな状況に歯がゆい思いをしていたアポロ計画の子どもたちが、政府が手を引くのならば民間企業でやってやろうという潮流を生み出すべく始めたのがXプライズです。史上初の民間宇宙飛行を成し遂げたチームが1000万ドルを獲得するという賞金レースとしてXプライズが生まれ、実際にアメリカを中心に民間企業による宇宙開発の流れが大きく動き出しました。Amazon創業者のジェフ・ベゾス(1964年生まれ)もそんなアポロ計画の子どもの一人として宇宙旅行企業ブルーオリジンを立ち上げているわけです。

宇宙開発関連の情報は、アポロ計画以降の断絶と、ロシアというブラックボックス、政府から民間への担い手の変化、ただし、政府系のレガシーを引き継いだ企業もあってと、とにかくややこしくて、きちんと理解するのが猛烈に大変ですが、600ページ近くある『Xプライズ 宇宙に挑む男たち』一冊でかなりの部分をカバーすることができるのでオススメです。

補助線④イーロン・マスクは完全に別ルート

ただ、最終的に本当に民間宇宙開発の旗手となったのは、ここまでの流れとは完全に別のルートを歩んできたイーロン・マスクでした。1971年生まれで、アポロ11号の洗礼を受けていないのです。

イーロン・マスクがどうして宇宙開発に駆り立てられたのか、私にとってはずっと謎だったのですが、去年発売された伝記を読んで、やっと納得できました。

イーロン・マスクは、少なくとも宇宙開発分野においては、“科学文明は気を抜くと衰退していく”という現実が、ギークとしてどうにも我慢ならなかったのです。米ソ冷戦という狂気によって駆り立てられていた宇宙開発関連の科学技術は、冷戦終結で一気に気が抜けて、確実に衰退していました。そんなの許せないという気持ちなら、同じギークとして、私はなんとなく分かります。詳しくは、↓こちらに書きました。

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