九段理江『東京都同情塔』でアナウンサーのコメントがつまらない理由について考えさせられた

「芥川賞受賞作に生成AIが使われていた。」と聞いて気になっていたものの、発表された1月は死にそうなくらい忙しくて、それどころではありませんでした。やっと落ち着いてきたところに、受賞した作家の九段理江さんは、今、私が住んでアナウンサーとして働いている石川県と縁が深いと聞いたので、『東京都同情塔』を読むことに。

『 東京都同情塔』
九段理江

【出版】 2024-01-17
寛容論に与しない建築家・牧名沙羅は、新しい刑務所の設計図と正しい未来を追求する。日本人の欺瞞をユーモラスに暴く問題作!
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「生成AIをそう使ってきたか!」と衝撃を受ける使い方で、それは私がうっすらと感じていた「アナウンサーのコメントのつまらなさ」問題に直結していて、強烈に考えさせられる読書体験となったのでした。

生成AIが一般化してまだ2年も経っていないのですが、生成AIに対する共通理解として、この半年ほどで急速に定着したイメージがあります。「ポリティカル・コレクトネスでガチガチにしばられている」というイメージです。生成AIは、手綱をゆるめると一気に暗黒面に落ちてしまうため、少なくとも大手の生成AIサービスは、ポリコレ準拠な内容しか出力しないよう過剰なまでに調整されているものであることを、我々は前提として認識するようになりました。

『東京都同情塔』は、単行本の帯に「Qあなたは、犯罪者に同情できますか?」と、多様性の尊重について問うていることから分かるように、ポリティカル・コレクトネスが大きなテーマとなっている作品です。実は、生成AIで出力される文章は、ポリコレでガチガチにしばられた表現の象徴として登場するのです。また、主人公である敏腕女性建築家は、超大型公共施設コンペに勝ち抜くプレゼンをするため(にはポリコレ的美辞麗句コンセプトで武装するのが定石だから)なのか、ポリコレを過剰なまでに内面化しようとする人物として描写されます。一方で、主人公の繊細な感性は、そこに強烈な違和感を覚えずにはいられないわけで、その落としどころが、自分が生み出したポリコレの象徴的建造物に「東京都同情塔」という絶妙にダサい呼称を与えることなのです。読むとひしひしと伝わってくる、九段理江さんの言語感覚の凄まじさ!

このようにして、「極めてそれっぽいけれどポリコレでガチガチにしばられていて血が通っていないように感じられる絶妙に薄っぺらい言葉」ばかりを吐くのが生成AIであると喝破されてしまうと、それってアナウンサーのコメントなども同じじゃないかと感じてしまったのです。

九段理江さんは、生成AIの文章との違いが一目瞭然な文章を綴れるからこそ、生成AIの薄っぺらさを作品のモチーフとして使えるわけです。どうやったら、生成AIには書けない、人間ならではの文章を書けるのか?4月27日(土)に石川県立図書館で九段理江さんのトークイベントが開催されたので、個人的に参加して直接聞いてきた結果は、↓こちらの記事に続きます。

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